
2025年6月22日(土)、神奈川県・横浜アリーナにて、ロックバンドSuchmos(サチモス)がついに帰ってきました。
2021年2月に活動休止を発表して以来、実に約4年ぶりとなるワンマンライブ「Suchmos The Blow Your Mind 2025」の最終日公演。
単独での有観客ライブとしては、なんと5年8カ月ぶりということで、会場にはこの日を心待ちにしていたファンの熱気が渦巻いていました。
2日間でおよそ2万5千人が詰めかけたこのライブ。開演直前、場内の照明がゆっくりと落ち、静かに流れ始めるSE。
白いスポットライトの中、6人のメンバーがステージに姿を現すと、客席からは自然と「おかえり!」「待ってたよ!」という温かな声があちこちから響き渡りました。
会場は一気に感動と興奮に包まれ、まるで長い旅を終えた家族を迎えるかのような雰囲気に。
ボーカルのYONCE(33)は、少し照れくさそうに、でも心を込めて「初めまして、お久しぶりです」と語りかけ、「外が気持ちいい時間に、こんな暗い場所に集まって変わってますね、あなたたち。ありがとう」と、彼らしいユーモアを交えつつ観客への感謝の言葉を伝えました。
続いてドラムのOK(34)も、短くも力強く「来てくれてありがとう」と一言。
その声には、これまでの時間の重みと、再会できた喜びが滲んでいました。
そんな久しぶりのステージで、彼らはどんな音を響かせ、どんなメッセージを届けたのでしょうか?
目次
セットリストとライブ構成:往年の名曲から新曲まで、進化を感じさせる一夜
1. クールに幕開け:「Pacific」「Eye to Eye」
ステージに登場したSuchmosの6人がまず鳴らしたのは、意外とも言えるインストナンバー「Pacific」。
音が鳴った瞬間、横浜アリーナには静かに熱が広がっていきました。
メンバーたちが放つ凛とした存在感と、どこか浮遊感のある演奏が、観客の心をすっと非日常の空間へと引き込んでいきます。
そして2曲目には、未発表の新曲「Eye to Eye」。
軽快ながらもしっかりと芯のあるファンクグルーヴが響き、Suchmosの“次なるモード”を予感させました。
YONCEのボーカルも、どこかしっとりと、でも内側から熱を帯びたような歌い回し。
序盤から「今のSuchmos」が提示され、期待と興奮が一気に高まります。
2. 定番ヒット曲ゾーン:「DUMBO」「STAY TUNE」「808」
ライブが一気にギアを上げたのは3曲目「DUMBO」から。
HSU(ベース)のパワフルでどっしりとしたベースラインが、まるで地面から突き上げるように会場全体を震わせ、オーディエンスの体も自然と揺れはじめます。
続いてSuchmos最大のヒット曲「STAY TUNE」へ。
イントロが流れた瞬間に湧き上がった歓声、YONCEの「いける?」の一声に呼応するように起こるコール&レスポンス。
レーザーが天井を駆け巡り、空間はまるで巨大なクラブに。
そこから間髪入れずに「808」へとなだれ込む構成は、まさに圧巻。
サウンドとビジュアルの融合で、観客のテンションはさらに上がっていきました。
3. 中盤のグルーヴゾーン:「PINK VIBES」「Burn」「Alright」「MINT」
ライブ中盤には、グルーヴィで自由なムードが漂いはじめます。
YONCEが「おれらは勝手に楽しむから、あなたがたも勝手に楽しんでください」と放った一言で、観客の表情がふっと緩み、フロアは自由に身体を揺らす人たちでいっぱいに。
「PINK VIBES」「Burn」「Alright」と続いた流れは、サウンドも照明もシンプルながら心地よく、まるで夕暮れのドライブをしているような感覚に。
そして「MINT」では、YONCEが花道へと歩み出て、観客のすぐそばで歌い上げる演出が。
この距離感、この一体感――それこそがSuchmosのライブの魅力であり、ファンが何年も待ち続けた理由でもあるのでしょう。
4. 新作EP『Sunburst』からの新曲たち:「Whole of Flower」「Marry」「OVERSTAND」「To You」「Latin」
後半には、今後リリース予定の新作EP『Sunburst』からの新曲が惜しげもなく披露されました。
「Whole of Flower」は、シティポップのエッセンスをまとったソウルフルな一曲。
やさしく包み込むようなアンサンブルが印象的でした。「Marry」ではYONCEがアコースティックギターを手に弾き語り。
柔らかく語りかけるような歌声が会場に響き渡り、その温かさに思わず涙ぐむ観客の姿も。
さらに「OVERSTAND」「To You」「Latin」と続くブロックでは、Suchmosらしいクールさを残しつつも、より感情の深い部分に寄り添うような音作りが感じられ、まさに“今の彼ら”の姿を音で表現していました。
5. クライマックス:「GAGA」「VOLT‑AGE」「YMM」
ライブのクライマックスは、ファンにとっても特別な3曲で締めくくられました。
まずは鋭いグルーヴが印象的な「GAGA」。複雑な構成ながら一体感のある演奏で、会場のボルテージは一気に最高潮へ。
そして「VOLT‑AGE」。
2018年、サッカーワールドカップのNHKテーマソングとして日本中に響き渡ったこの曲は、Suchmosが“国民的バンド”として認識された象徴のような存在。
スタジアムのような熱狂がアリーナを包み込みました。
最後は「YMM」。YONCEが「カモンDJ!」と叫ぶと、TAIKING(ギター)や山本連(キーボード)と共に花道へと降り、観客と同じフロアに立ち、音楽を“共有”する姿がとても印象的でした。
ライブの最後まで、彼らは一貫して“観客と一緒に楽しむ”というスタンスを貫いていたのです。
この夜、Suchmosはただの“復活ライブ”を超えて、進化と再出発を力強く宣言しました。
次はどんなステージを見せてくれるのか――そんな期待が高まらずにはいられません。
アンコール&HSUへの追悼:静かな時間に宿る、深い想い
アンコールの幕が上がると、会場の空気がふっと変わりました。
にぎやかで熱気に包まれた本編とは異なる、静かであたたかな“間(ま)”がそこにはありました。
ステージ中央に立ったYONCEは、穏やかな口調で語りはじめます。
「失った人は帰ってこないということは、この4年間で嫌というほど理解しました」。
その言葉に、会場のあちこちで息をのむような空気が流れます。彼が語った“失った人”とは、2021年10月に32歳という若さでこの世を去ったベーシスト・HSU(小杉隼太)さんのこと。
Suchmosの音楽の核を支え、ファンにも深く愛された存在です。
そしてYONCEは「みんなで深呼吸しませんか」とやさしく呼びかけました。
観客たちは目を閉じ、深く、ゆっくりと息を吸い、吐く。
誰もが静かにHSUを思い、その時間を共有しました。まるで会場全体が、ひとつの大きな心臓のように鼓動を合わせているような、そんな特別な「深呼吸タイム」でした。
音も言葉もない中で、ただ“感じる”ことを大切にしたこの時間は、Suchmosらしい追悼のかたちだったのかもしれません。
家族への思いと、未来への意思
追悼の言葉は、それだけでは終わりませんでした。
YONCEは続けて、「来週は彼の誕生日です。彼には2人の息子がいるんです」と語り、彼らの存在が今の自分たちにとって大切な意味を持っていることを明かしました。
「彼らのおもちゃ代を稼ぐのは、俺たちの仕事だなと思ってます」。
その一言には、笑いと涙が混ざり合うような、深い人間らしさがありました。
ただのバンド仲間ではない、“家族”のようなつながりを感じさせる一瞬です。
さらにドラムのOKも、「俺に隼太がくれた最後の言葉は、『一番好きだぞ』でした」と明かし、言葉の重みと、今もなお続く絆の強さが胸に響きました。
その場にいた誰もが、そんな言葉に心を揺さぶられ、静かに頷いていたはずです。
新たな希望へ:「BOY」「Life Easy」
しんとした空気のあとに披露されたのは、新曲「BOY」。
どこか切なさをたたえつつも、前を向いて歩いていくようなメロディと歌詞が、心にそっと寄り添ってきます。
追悼の余韻を引き継ぎながら、会場全体に「それでも生きていくんだ」という静かな決意のようなものが広がっていきました。
そしてラストナンバーは「Life Easy」。
タイトルのとおり、肩の力を抜いて自然体で生きることの大切さを感じさせる一曲。
演奏中のメンバーはどこかリラックスしていて、その雰囲気がそのまま観客にも伝わっていきます。
自由で軽やか、それでいて芯のあるSuchmosの音楽が、最後の最後まで会場を包み込み、ゆるやかにライブの幕を下ろしました。
静けさと熱狂、喪失と希望。
そのすべてを詰め込んだようなこのアンコールは、まさに“今のSuchmos”が伝えたかったメッセージそのもの。
これからの彼らの歩みに、さらなる期待が高まる夜となりました。
HSU(小杉隼太)さんについて──静かに音を奏で続けた、強く優しい存在
Suchmosの低音を支え続けたベーシスト・HSU(スー/本名:小杉隼太)さん。
その音楽への深い愛と、まっすぐな人柄で、メンバーやファンからも広く愛された存在でした。
2019年頃、彼は体調不良を理由に入院し、腫瘍の摘出手術を受けていたことが報じられています。
その後の詳しい病状については公には語られませんでしたが、それでも彼は音楽の現場から離れることなく、できる限りのかたちで活動を続けていました。
Suchmosが2021年2月に活動休止を発表した際も、HSUさんは完全に表舞台から姿を消したわけではありませんでした。
サポートベーシストとして他アーティストの演奏に参加したり、自身の音楽プロジェクトに関わったりと、音を奏でることに対して真摯に向き合い続けていたのです。
沈黙の中にも確かな熱が感じられる、彼らしい姿勢だったといえるでしょう。
しかし、2021年10月15日。Suchmosの公式サイトを通じて、HSUさんが同月、32歳という若さで亡くなったことが発表されました。
その突然の知らせに、音楽界には大きな衝撃と悲しみが広がりました。
死因や正確な逝去日時など、詳しい情報は公表されておらず、葬儀はご家族の意向により近親者のみで静かに執り行われたとのことです。
そのことからも、HSUさんの人生が、最後まで“音楽と家族”を大切にした、静かで誠実なものであったことが伝わってきます。
Suchmosにとって、そして多くのファンにとって、HSUさんは今もなお“バンドの一員”であり続けています。
彼の残した音と記憶は、これからの音楽の中にも、きっと生き続けていくことでしょう。
次なる展開へ――アジア・ツアーとEP『Sunburst』で広がる新章の幕開け
Suchmosの“復活の夜”は、感動と興奮に包まれて終わりを迎えましたが、その余韻が冷めやらぬ中で、彼らからファンへのさらなるサプライズが発表されました。
6月21日の初日公演にて、Suchmosは10月からスタートする待望のアジアツアー「Suchmos Asia Tour Sunburst 2025」の開催を発表。
今回のツアーでは、国内外あわせて13都市を巡るという大規模な内容で、バンドとしての本格的な“再始動”を強く印象づけました。
国内公演は、今回のライブの舞台である横浜を皮切りに、福岡・大阪・広島・北海道・宮城・愛知・富山・東京といった主要都市を回る予定。
久々に生のSuchmosを目の前で体感できるとあって、全国のファンにとってはたまらないニュースです。
そして海外公演も見逃せません。
ソウル、上海、台北、バンコクというアジアの主要都市でもライブが予定されており、Suchmosの音楽が再び国境を越えて広がっていく姿に、胸が高鳴ります。
彼らの音楽は、言葉の壁を越えて“グルーヴ”でつながる力を持っている――そんな確信を感じさせる展開です。
さらにうれしいお知らせは続きます。
来たる7月2日、約6年ぶりとなる待望のEP『Sunburst』のリリースが決定。
ライブでもいくつか披露された新曲たちは、従来のSuchmosらしいソウルやロック、ファンクの要素を残しながらも、よりエモーショナルで洗練された響きを放っていました。
まさに“新たな季節の始まり”を告げる一枚になりそうです。
Suchmosは今、ただ“帰ってきた”だけではなく、未来へと歩き出しています。
ライブというリアルな空間、そして音源という形で届けられる“進化したグルーヴ”に、これからも目が離せません。
まとめと展望:「復活」ではなく「再始動」の音を鳴らして
2025年6月の横浜アリーナ公演は、Suchmosにとって約5年8カ月ぶりとなる単独有観客ライブということで、“復活”という言葉が多くの見出しに並びました。
しかし実際にその場に足を運んだ人々、そしてライブを通して彼らの音に触れた人々の多くは、こう感じたのではないでしょうか。
――これは、ただの復活ではない。
――これは、新しい章のはじまりだ。
この日のステージからは、Suchmosというバンドが、ひとつの時代を終え、そこからさらに成熟し、新たなスタイルと表現を得て、“再始動”したという確かな手応えが伝わってきました。
懐かしの名曲が鳴れば会場は沸き立ち、新曲が披露されれば静かに聴き入る。
過去と未来が交差するその空間は、Suchmosが歩んできた軌跡を感じさせると同時に、これからの可能性を感じさせるものでした。
活動休止中も、メンバーそれぞれが止まることなく音楽と向き合ってきたことも、この“進化”の背景にあります。TAIKING(タイキング/ギター)やTAIHEI(キーボード)、YONCE(よんす/ボーカル)、OK(ドラム)、Kaiki Ohara(サポートベース)は、それぞれソロ名義や他アーティストとの共演、制作などで活躍し続け、自分自身の表現を広げてきました。
そうして得た経験や視野が、今回のライブでのアンサンブルや音の広がり、そして表現の深みへとつながっているのです。
そして忘れてはならないのが、HSUさんへの深い愛情とリスペクト。
彼の存在は、あの場にいなかったとしても、確かにそこに“いた”と感じられるものでした。
YONCEの言葉、OKの回想、観客との深呼吸。
すべてが、HSUさんという人が残してくれた音と心を大切に繋ぎ続ける“証”だったように思います。
Suchmosは今、新たな旅に出ようとしています。
7月には新作EP『Sunburst』のリリースが控え、10月からは13都市を巡るアジアツアーもスタートします。
音楽で人と人をつなぎ、国境や言語を越えて心を動かす彼らの旅路は、これからさらに広がっていくことでしょう。
彼らが鳴らすのは、懐かしさではなく、新しさ。
そして、それぞれの時間を経てたどり着いた、Suchmosとしての“今”の音。
その音を、私たちはこれからまた、リアルに感じ続けることができるのです。