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■ 教室が歓声に包まれた理由は…?
2025年5月28日、愛知県豊川市にある県立豊川工科高校で、毎年恒例の球技大会が開催されました。晴れやかな空の下、グラウンドではバレーボールやサッカーで汗を流す生徒たちの姿が見られましたが、ひときわ盛り上がっていたのは、なんと校舎の中にある教室!
外の熱気に負けないほどの歓声が教室から響き渡り、のぞいてみると――そこにはゲームコントローラーを握りしめ、モニター画面に釘付けになっている生徒たちの姿が。目を輝かせながら真剣な表情で対戦を繰り広げるその光景に、思わず先生たちも足を止めるほどでした。
実はこの日、豊川工科高校では球技大会に“eスポーツ”を新たに導入。体育館やグラウンドでのスポーツに加え、教室での熱いゲームバトルも公式競技として行われたのです。ゲーム好きな生徒たちにとっては、まさに待望の舞台。「スポーツ=身体を動かすだけじゃない」そんな新しい価値観を広げる、注目の取り組みが始まっていたのです。
果たして、どんなゲームがプレイされたのか? どんなドラマが生まれたのか? 続きでは、教室を熱狂の渦に包んだ“eスポーツ大会”の舞台裏に迫ります。
■ eスポーツってなに?世界でも注目の「デジタル競技」
近年、「eスポーツ」という言葉を耳にする機会が増えてきましたが、実際にはどんなものなのでしょうか?
文部科学省によると、eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)とは、コンピューターゲームを使って対戦する競技を、スポーツの一種として捉える考え方。戦略性や反射神経、チームワークなどが問われる点で、従来のスポーツと共通する要素も多く、まさに“デジタル時代の競技”として注目を集めています。
実際、2018年には世界で約1000億円規模の市場が形成され、その勢いは今なお拡大中。賞金総額が数億円にのぼる大会も珍しくなく、トッププレイヤーたちは“プロ選手”として世界中を飛び回り、多くのファンから支持を集めています。
そして今、eスポーツは「遊び」や「趣味」の域を超え、教育や地域活性の分野でも注目されるようになってきました。2026年に愛知・名古屋で開催予定のアジア競技大会でも、正式種目として採用されることが決定しており、日本国内でもその重要性がますます高まっています。
そんな世界規模で注目されるeスポーツが、いよいよ高校の学校行事にも登場――。豊川工科高校が始めたこの新しい試みには、どんな背景や想いがあったのでしょうか? 次のセクションでは、学校現場でeスポーツが取り入れられた経緯や、生徒たちの反応に迫ります。
■ 「運動が苦手でも輝ける場所を」コロナ禍で見えた課題
この取り組みのきっかけは、先生たちの「もっといろんな才能が輝ける場所をつくりたい」という想いでした。
生徒会主任の中川恵輔先生はこう話します。
「コロナ禍以降、運動に苦手意識を持つ生徒が増えてきました。でも一方で、ゲームが好きだったり、実況動画をよく観ている子も多い。そんな子たちが活躍できる場があればと思ったんです」
「学校でゲームなんて大丈夫かな…」という不安もあったそうですが、意外にも校長先生からは「やってみよう!」と快諾。生徒会のメンバーも大喜びで、ゲームの選定やルール作りに積極的に関わったといいます。
■ 生徒の声で選ばれたゲームたち
eスポーツの実現には、機材の準備が必要。モニター10台、Nintendo Switchが2台、PlayStation4が1台、アーケードコントローラーなど合わせて、約30万円の予算を生徒会でまかないました。
ゲームの選定には、以下のポイントが考慮されました:
- ネット環境に左右されず、オフラインで遊べること
- 一台で複数人が遊べること
- 誰でも気軽に楽しめること
そして、生徒たちによる投票の結果、選ばれたのが「大乱闘スマッシュブラザーズ」「マリオカート」「ストリートファイター」の3タイトルです。
「球技大会っていう枠にこだわらず、生徒が楽しめることを第一に考えました」
と先生は話してくれました。
■ 大盛り上がりの教室!普段は静かな生徒も大活躍
当日は、eスポーツのほかにソフトバレーボールとボッチャも実施。全校生徒約600人のうち、およそ250人がeスポーツの部に参加しました。
準備万端…と思いきや、当日朝にプロジェクターの配線トラブルが判明!観戦スペースが使えなくなるというハプニングもありましたが、それでも教室には生徒たちが詰めかけ、特にスマブラの会場は大盛況。廊下まで人があふれるほどでした。
普段は目立たないタイプの生徒が、思い切り声を上げて喜んだり、見事なプレイで歓声を浴びたり。中川先生も、その様子に胸を打たれたそうです。
「これまでの球技大会では注目されなかった生徒たちが、みんなの中心で輝いていたんです。こんな景色が見られるなんて、感無量でした」
■ アンケート結果も高評価!来年はレースゲームも?
大会後のアンケートでは、
- 「eスポーツの部があってよかった」……83%
- 「来年も出たい!」……78%
- 「去年より楽しかった」……65%
など、高評価が続出。「種目をもっと増やして!」「卒業する前にもう一度やりたい」「運動が苦手でも楽しめるのが嬉しい」といった声も多数寄せられました。
来年の実施についてはまだ未定とのことですが、中川先生はこんな新しい案も披露してくれました。
「うちの学校は自動車関連の会社に就職する生徒が多いので、『グランツーリスモ』で企業ごとの車種だけ使ってレースをするのも面白いかなって」
■ まとめ:「みんなが主役」になれる学校行事を目指して
今回のeスポーツ導入は、単なる話題作りや一時的な盛り上がりではなく、学校という場所の新しい在り方を提示する、大きな一歩となりました。
これまでの学校行事といえば、どうしても運動が得意な生徒が目立つ場面が多く、苦手な子にとっては「参加することがプレッシャー」になることもありました。しかし、今回のようにeスポーツという選択肢が加わることで、ゲームが得意な生徒たちも自信を持って活躍でき、「自分の得意が認められる」そんな空間が生まれたのです。
教室に響いた歓声や真剣なまなざしは、まさに“青春”そのもの。豊川工科高校のチャレンジは、学校行事の可能性を広げ、多様な個性を尊重する教育のヒントを私たちに投げかけてくれます。
運動が得意な子も、ゲームが得意な子も、どんな個性を持った子どもたちも、それぞれのフィールドで輝ける。そんな「みんなが主役」になれる学校行事が、今後ますます広がっていくことを願いたいですね。
豊川工科高校の挑戦は、これからの教育や学校イベントに大きなヒントと希望を与えてくれる、注目の取り組みです。